本研究は、インタビュー調査を中心とする質的調査方法でコンテキストを重視したリーダーシップ研究を実施した。 調査対象としては、エーザイ株式会社アルツハイマー型認知症治療薬「アリセプト」探索研究チームの事例、ランプ・メーカーであるフェニックス電機株式会社の再建事例、神戸洋菓子産業の阪神淡路大震災の復興事例、複合素材の研究開発を主とする株式会社I.S.Tにおいてフィールド・ワークを実施した。株式会社I.S.Tの事例は現在データの分析中であるが、それ以外の事例では成果が出ている。 エーザイの事例では、リーダーシップの役割分担という新たな概念を導きだすことができた。この事例におけるリーダーシップの役割分担というのは、専門領域の異なる研究者を統率するには、リーダーが自らの影響力の範囲を自覚し、専門領域の異なる部下に対してはその分野に精通したサブ・リーダーを選び、彼等とリーダーシップを役割分担するというものである。 フェニックス電機の事例では、企業再建における再建請負人のリーダーシップで重要なのは、リーダーの意向に従うだけの受動的なフォロワーではなく、リーダーと問題意識を共有し、いつでもリーダーになれるだけの能動的なフォロワーを育成することにあるという結果が得られた。フォロワーの能動性を喚起するリーダーシップとは、リーダーが有能性を示しフォロワーからの信頼を得たのちに、組織のビジョンをフォロワーとの意見のすり合わせという一見すると遠回りに見えるような粘り強い相互作用を通じて、彼らの意識変革を促すというものである。フェニックス電機は、倒産後7年目に再上場を果たし、その後当時の経営幹部に社長のポストが継承されたことから、このリーダーシップの有効性が実証されている。
|