研究計画二年目である本年度の中心的な研究は、質問表調査の実施である。調査対象は、大学発ベンチャー企業(一部、研究所発ベンチャーも含む)である。大学発ベンチャー企業の設立は、近年の産学連携をめぐる議論で重要性が指摘されている。また、起業という行為には、起業者の意図や戦略性が存在している。この意図や戦略性の違いが、企業の経営上の成果、および、イノベーション創出という成果に影響を及ぼしている可能性があると考え、産学連携のバリエーションの中でも、大学発ベンチャー企業を調査対象とした。質問票配布先企業は、『全国試験研究機関名鑑』(文部科学省科学技術・学術政策局監修)や新聞、雑誌、公的機関の報告書など外部資料を中心にして862件分のリスト作成を行った。企業代表者に回答をお願いする形式で質問表を送付し、177件のご協力により質問票が回収された。今回の調査で確認された点として、3点を示す。第1点は、経済的な成果に関することである。ライセンス料については、イニシャル、ランのいずれであっても、ライセンス料という形で大学へ資金還元を実現したと認識している企業は少数であることが確認された。第2点は、企業規模の拡大に関することである。株式公開を目指すか否かについては、すでに公開したり近いうちに公開する企業が存在する一方、株式公開を目指さないとする企業が約半数に上った。第3点は、イノベーションの創出に関することである。起業を通じた研究者の学習や大学における研究の拡大についての認識は、起業の意図や業種などによって違いがあることが確認された。この点に注目すれば、経済的成果や企業規模拡大という従来の観点とは別の観点から、大学発ベンチャー企業の活動を捉えることができる。今回の調査結果を詳細に整理、分析することを通じて、大学発ベンチャー企業の活動とイノベーション創出の関係を解明していくことが次なる課題である。
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