研究課題
企業における人的資源管理戦略と軸を一にするがごとく、スポーツ界においても選手のキャリアの在り方に対しての議論が活発化してきた。スポーツ選手の引退後のアウトプレースメントから本質的なキャリアデザインまで、非常に多岐にわたる研究が世に問われ始めている。また、産業界を一瞥すると、スポーツ選手が競技を継続しながら経済的な基盤を確保するための仕事を紹介するといった新たなビジネスモデルも誕生している。主に経済的な理由で競技を断念せざるを得ないアマチュア選手達が、競技以外の場でキャリアをブラッシュアッブして、引退後もスポーツで培った経験や実績を支援することは、社会的使命はもとより、市場規模からも魅力的なビジネスである。しかしながら、スポーツ選手のキャリアに関する研究は、選手の自己認識トレーニングに基軸を置いた成果も散見されるものの、その中心的なパースペクティブがアウトブレースメントの内容に終始してしまう傾向が多いことも否めない。よって本年度では、多数あるキャリアに関する研究を整理して、とりわけ経営学的なパースペクティブから、スポーツ選手に対する理論的視座を提供することを目的とする研究を展開した。従来のようなBridgesやNicholsonおよびSchlossbergのキャリア理論は、キャリアトランジションのブロセスを中心的視座に置きながら、キャリアの転機に臨むときの態度についても論及している。人生の節目や転換点ともなりうるような「変化」は非日常的でコントロールし難く、突発的に起こり、不安を喚起し、個人の存在そのものを否定するようなものである、という前提がある。しかし、その経験を通じて、それらから逃げることなく、また避けられない経験として受容し、変化の生起という事実それ自体に対しては受身的に対応せざるを得ないが、それをポジティブな意識・行動に昇華させていくというアブローチこそが、この3つの理論に代表されるトランジション理論に共通する理論的視座である。しかしながら、KrumboltzによるPlanned Happenstance Theoryでは、あくまでも自然に身を任せるという立場を強調する。キャリアの形成は偶然の産物であり、重要なのは、偶然を受け入れる心の準備と、好奇心旺盛に常に行動に起こす機動性である。また、いったん意思決定したことでも臨機応変に変化させる思考的柔軟性である。これが偶然を必然化するエネルギーであると主張するのである。以上のように、従来のキャリア理論とKrumboltzによる新しいキャリア理論(Planned Happenstance Theory)では、それぞれが、自己の否定と新しい自己概念の構築をペースとしている点で共通項を見出せる。しかし、キャリアに対する2つの研究視座を整理すると、「変化に対する捉え方が受動的か能動的か」および「行動が非日常的か日常的か」というどちらの視点を重視するのかという点で相違することを文献研究によって明らかにした。
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日本スポーツ心理学会第33回大会研究発表抄録集
ページ: 188-189
Proceedings IEA2006 Congress, Maastricht, Netherlands Elsevier (CD-ROM)
日本体育学会第57回大会予稿集
ページ: 119