本研究の要は、真理の追究に偏重する「科学としての経営学」(経営科学)の特徴を明らかにすることにある。そのために本年度は、「科学としての経営学」を推し進め近代経営学の扉を開いたH.A.Simonの理論を中心に検討した。 Simonは「科学としての経営学」を志向して「管理科学」を提唱し、近代経営学の扉を開き、その後の経営学の主潮流を決定づけた。 Simon理論は、論理実証主義を自身の方法論的基盤に据え、経営学の科学的精緻化(経営科学)を大いに促進させた。経営科学を志向するサイモン理論の経営学史上の位置を確認するために、F.W.TaylorやM.P.Follett、G.E.Mayoといった諸学説と関連づけつつ考察した。その過程で明らかになったことを端的に言えば、それは、Mayoが文明論的に批判した「知識経営の問題性」を克服するよりも、むしろ深刻化させることとなったと指摘できる。言い換えれば、Simon理論は、経営学の理論的精緻化・再構成を目指し、結果として<世界>に潜在する多様な意味の<組織の意味>への一元化・優越を促し、組織的価値を社会的価値から乖離させる危険性を、つまり「閉じられた人間協働」の危険性をより深刻化させたのである。Simon理論は、Follettが指摘した経営科学と経営哲学との同時的発展という経営学体系の展開を促すというよりも、むしろ論理実証主義に立脚することで価値的要素をその研究対象から除外し、経営科学に偏向する形での経営学の展開を方向づけ促進させたのである。 Simon理論によって方向づけられた近代経営学の主潮流は、その帰結として「閉じられた人間協働」化の危険性を孕んだのである。ここに、Simonとともに近代経営学の祖と位置づけられるC.I.Barnardの理論を検討する必要性が出てくる。これはH20年度のひとつの課題である。
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