平成18年度においては、セイコーエプソンおよび花王へのヒアリング調査を重ね、事業間技術転用によるイノベーションの実現メカニズムを探索した。とくに、その事業間での技術転用時における仲介プロセスにおける学習効果を今まで以上に詳細に把握した。その成果については、2006年11月11日に開催された組織学会関西部会において発表し、示唆に富む有益なコメントを数多く吸収した。 また、これまでの分析対象とは異なる企業事例あるいは産業事例の探索活動も開始した。産業でいえは、テレビ産業の発展プロセスを歴史的に解明し、その産業発展プロセスにおいて各種のイノベーションがどのような影響を与えたのかを分析した。テレビ産業においてイノベーションを担ってきた企業はいずれも多角化を遂げた大企業であり、何らかの生産技術上の事業間関連性があるかもしれないと期待して分析した。ただし、その関連性はいまだ発見できていない。 ほかの企業事例の探索でいえば、ヤマハやワコールといった企業へのヒアリング調査を複数回行った。たとえばヤマハにおいては、ピアノを代表とする楽器事業で蓄積された木工技術やゴルフクラブなどのスポーツ事業で蓄積された金属加工技術をカーパーツ事業へ転用した事例を発見した。その転用プロセスはさらに今後も詳細に研究していこうと考えている。 こうした一連の現場調査の一方で、自身の研究の理論的意義を見出すべく、過去の先行研究をレビューし、それを研究ノートとして発表した。そこではとくに、多角化企業のイノベーションメカニズムを解明することの重要性を説き、加えてそれがこれまで十分な研究の光を浴びてこなかったことを論じた。
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