本年度は、3年計画の最終年度にあたったため、主に研究成果の発信に注力した。その結果、大きく以下の3点について、研究成果が得られた。 1. 事業間技術転用に関する既存研究を文献レビューして、イノベーションに関する既存研究との交差領域を、新たな潜在的研究領域として示唆した。具体的には、リソース・ベースト・ビューに関する既存研究においてはイノベーションという問題があまり扱われていない一方で、イノベーションに関する既存研究では、リソース・ベースト・ビューが想定したような複数事業間での知識移転やシナジーといった問題があまり扱われていないことを示したうえで、リソース・ベースト・ビューとイノベーション研究の交差領域の可能性を指摘した。こうした内容は「経営資源観とイノベーション研究の統合可能性」と題する論文として学術誌に投稿し、受理、掲載された。 2. 事業間技術転用に関する実証分析結果を「多角化企業の戦略と資源」というテーマで執筆した。その内容は、『現代の経営理論』という書籍の第4章で論じた。多角化企業の飽和状態とも言われる日本企業において、複数事業をどのようにマネジメントすべきか、という問いを分析することは非常に重要だと思われる。 3. 新たな研究対象を模索した。複数事業を抱えるということは、複数の産業を相手とすることを意味するため、事業間での技術シナジーの成果は、複数の産業で発揮されることもあろう。また、従来は関係が見えないような産業同士で、何らかの関係変化が生じる場合もある。そうした、複数産業間での相互作用メカニズムを解明することを次なる研究課題として据えることとした。
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