本年度は、昨年度に実施した英国における社会的企業やコミュニティビジネスに関する文献収集と現地でのインタビューをもとに、日本における社会的企業やコミュニティビジネスの基盤整備に関する検討を進めた。また、昨年度に引き続き、英国をはじめとしたEU諸国の現状を把握するために、文献収集とその整理を進め、社会的企業やコミュニティビジネスに関する現下の状況把握に努めた。そのうえで、日本における社会的企業・コミュニティビジネスの存立条件と基盤整備の課題に取り組むために、経営学・企業形態論の観点から分析を試みた。 以上から導きだされたことは以下の諸点である。まず、英国をはじめEU諸国では、社会政策上の課題として、社会的排除の克服という問題が注目を集めており、社会的に排除された人々をどのように社会に包摂するか、すなわち、ソーシャル・インクルージョンの観点への関心が高まっている。そして、社会的企業は、ソーシャル・インクルージョンの手段として、対人社会サービス供給や労働市場への統合という分野で期待を集めている現状があるということがわかった。他方、今日の日本の社会的企業やコミュニティビジネスは、まだ萌芽的段階にあり、日本の諸事業が対象としている領域は、中心市街地活性化や農山村振興、環境問題への取り組み、社会福祉領域の活動などと広範にわたっているものの、その強みをどのように活かすかについては試行錯誤の状況にある。このようななか、社会的企業を経営学的に研究するためには、経営学や企業形態論の基礎理論を踏まえて分析を進める必要があり、さらには、対人社会サービス供給と労働市場への統合を担う事業組織について、経営学的分析を積み重ねることが必要となる。今後、これらの諸課題について、経営学および企業形態論の再構築の作業と並行しながら分析を進め、社会的企業論と企業形態論を包括した研究成果として公表する予定である。
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