本研究の目的は、生活文化・時空間消費型産業の海外進出について国際比較を行うことにある。具体的には、旅行産業における海外進出の国際比較を行う。本年度は主要3地域(欧州・アジア・北米)のうち継続調査として欧州、新規調査としてアジアを取り上げた。「対象市場」と「企業の基本姿勢」を念頭に置き、対象地域の旅行産業の構造および旅行企業の海外進出状況を把握した。また、旅行者行動と受入国の対応を調査することにより企業の海外進出行動の変化を探ろうとした。 研究発見は次のとおりである。まず欧州では、旅行企業による国際的な買収・合併が繰り返され、有力企業の巨大化、寡占化が顕著になっている。しかし、大型合併発表後に計画が撤回されるなど、業界構造は不安定で次の段階への変容過渡期にある。日系旅行企業の中にも欧州で同様の買収・合併を行う行動がみられるようになったが、日欧企業の買収目的は異なり、日系企業においては自社オペレーション範囲の拡大が先行し、対象市場の拡大は追随的目的となっている。 次にアジアでは、日本の旅行業界に類似する発展が時を追って観察される。海外観光渡航の自由化が旅行企業の国際化に影響を及ぼしている。台湾、韓国を中心にアジアの旅行企業の実態を把握すると、自民族を中心とするエスニックな経営行動の程度が日本の旅行企業のそれよりも高いことが発見された。アジアの旅行業界では現地オペレーションにも華僑系企業を優先的に利用し、自民族の企業ないしネットワークを重宝する傾向が強い。海外進出に着手する企業が登場し、日本進出では従来の取引先企業と提携関係を結び、双方向での送客を意図する。日本進出アジア企業には本国への日本人送客、つまり対象市場の拡大を試みる動きもみられるが、自民族市場の取り扱いに重点を置く。 以上、エスニックな経営スタイルは細部を異にするが、欧州、アジアにおいても見られるといえる。
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