研究概要 |
平成20年度の研究計画は、主として企業調査を継続的に行いつつ、理論的な枠組みを構築し、研究成果をまとめてジャーナルや学会で公表することであった。具体的な内容は、主として以下の3点である。 第一に、松下電器(以下、松下)が家電事業からデジタル事業に移行するプロセスをパソコン技術の形成という側面から捉え、事例研究の成果をまとめた。松下のノートパソコン技術は日本IBM、海外メーカーのOEM生産からの学習、社内における提携学習効果の内部化、アライアンスが解消されたあとの松下の技術自律化行動たよって確立された。しかし、パソコンの開発に携わる組織を見ると、パソコン技術はコンピュータ事業部以外の組織で開発され、一貫した組織で蓄積されなかったため、パソコン技術の蓄積が不連続的であった。技術別でいうと、ワープロ、ラジオ、メモリ、モニターといった固有技術の転用が見られた。アライアンス後、このように社内の新旧技術の融合ができたのは、松下の組織能力によるものではないかという結論に至った。その成果は映像情報メディア学会年次大会(福岡工業大学 : 2008年8月27-29日)、組織学会九州部会(九州大学 : 2009年3月14日)で発表した。また、松下の組織能力を捉えるために、近年松下が新たなデジタル事業を起こす際、アライアンスや他企業への交渉によって構築したビジネスモデルについてテスト調査を行い、論文や学会で結果を公表した(Chen, 2008 ; Chen & Ueda, 2009)。 第二に、アライアンスを分析する理論的な枠組みについて再考した。当初は資源ベース理論、ダイナミック・ケイパビリティ論などの理論をレビューしたが、資源の内部化における組織内部の調整(例えば、事業組織の変更や、製品設計の変更、他組織の資源の転用、グループ内外の連携など)、製品デザインの特徴や産業構造といった要素が資源の内部化に深く影響を与えることから、それらに関連する理論のレビューも行い、分析枠組みの再検討を行った。 第三に、この研究で残された課題を明確化し、次の研究方向への提案を試みた。アライアンス同士の評価の不対称性や、終了したアライアンスの効果を遡及的に捕捉することの難しさもあるため、学習の到達点を確認する客観的な手法の開発が必要だと思われた。それについて、すでに新たな手法の探索を開始した。
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