本研究の目的は、経営パラダイムの転換を図る既存企業が、転換に資源が欠けている状態からアライアンスという手段を利用する際の、アライアンス先との交渉と、アライアンスによる技術形成との連鎖的メカニズムを明らかにすることにある。事例として松下電器のコンピュータ事業を取り上げるが、調査内容は松下のノートパソコン「レッツノート」に関する技術形成に絞り込んだ。資源・能力アプローチに基づき、松下社内の固有技術の上に、性質的に異なるコンピュータ技術をどのように取り入れ、融合し、独自の技術を発展させたのかを分析した結果、以下のような知見を得た。第1に、「レッツノート」の直接的な技術の源流は、日本IBMのOEM生産提携と、社内開発した輸出用IBM互換パソコンであった。第2に、技術面の特徴として、松下グループ内部ではオープンアーキテクチャに適用した本体の開発技術が70年代から社内で形成され、80年代に日本IBMや海外パソコンメーカーとのOEM提携を経て、本体に関する開発技術も強化され、90年代社内周辺装置の集結によって製品の付加価値を高めた。第3に、組織面の特徴として、初期の本体に関する開発技術はコンピュータ事業部以外の組織で蓄積されたこと、提携から身に付けたパソコン技術以外に、従来陳腐化しつつあったラジオ技術やワープロの生産ノウハウも転用されたことなどが明らかになった。
|