日本の大学研究者は、鉛フリーはんだの可能性を中立的な立場から評価し、研究者間の国際的なネットワークを通じて世界に積極的に情報発信をし、鉛フリーはんだに関する材料規格の策定、試験方法の統一化など制度的な枠組みが国際的に整備され、技術変化を促進した。産学官に渡る研究開発ネットワークが技術変化と制度形成に与える影響は国と地域によって多様性が認められるが、大学や公的機関の研究者が主導する研究開発ネットワークが国際的に展開するに伴い、それぞれの国と地域の制度が長期的に収斂していく可能性が高いと考えられる。研究開発ネットワークがそれぞれの国と地域、また、国境を越えてどのような形で技術変化と制度形成に貢献できるか、国際比較によって分析を行った結果、質の高い学術研究を行うという従来から要請されてきた役割に加え、積極的に社会と連携することによって社会的課題を解決するという大学に課された新しい役割が実現可能であることが確認された。地球環境問題など、ステーク・ホールダー間の利害が簡単に一致しない社会的課題において、技術変化の方向性と速度に関する調整役として、学識と中立性を期待される大学研究者が果たす役割は大きい。それぞれの研究開発ネットワークの果たす機能は、その置かれた国や地域のイノベーション・システムの特性によって制約されることが示唆された。日本のイノベーション・システムにおいて、研究開発ネットワークは日本国内の技術開発を促進し市場形成と技術普及に貢献した反面、環境規制に関わる制度形成に対する影響力は極めて限定的であった。それぞれの国家・地域において、技術変化と制度形成を共進化させて技術の社会に対する貢献を最大化するためには、大学を中核とする研究開発ネットワークと分析対象となる国や地域におけるイノベーション・システムの相互作用をより深く理解することが必要であり、将来に残された研究課題となる。
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