今後サステイナビリティに向けたイノベーションに向けて、知識循環システムにおける不整合性が大きな問題となる可能性がある。水資源に関しては、海水淡水化向けの逆浸透膜、下水処理などに使う精密ろ過膜などの水処理技術が果たす役割は極めて重要であり、東レなど日本企業が開発した技術は世界的に見て非常に高い水準にある。しかしその優れた技術が中国など水不足・水質汚染が深刻な地域において有効に活用されているとはいえず、ビジネス・モデルとしても必ずしも成功しているわけではない。水資源の持続可能性を追求するにあたっては、需要の予測、水質の確保、水処理技術の開発、管理システム・インフラの構築、水利用のマネジメント、関連する法律・制度の整備など、多くの側面に亘る知識が求められる。日本国内で基盤技術の研究開発に関する知識の創出・共有・利用において効果的に働いた産学官連携のネットワークが、他国に対する単なる技術的知識の移転にとどまらない、現地の社会レベルでのイノベーションの創成に向けては、十分に機能しない可能性がある。一方、フランス・ヴェオリア、スェズやイギリス・テムズなどの欧州企業は、現地のサプライヤー、ユーザー、公的機関を含めた有機的なネットワークを形成し、水処理に係る要素技術の知識だけではなく、水資源の重要性や、水管理システムの維持・運営を含めた様々な知識をパッケージ化して提供することで、中国などで積極的にビジネスを展開している。これまで日本国内では、水関連事業は主に公的部門が担当し、長い間その運営・管理が行われてきた。しかし近年、環境関連サービスの民営化が進められる中で、長年にわたって蓄積してきた水処理・管理の経験やノウハウに関わる知識を体系化・形式化し、国際的な制度設計の提案と組み合わせることで、地球全体の水資源の持続可能性に向けて戦略的に展開することが強く求められる。
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