本研究は、鉄道事業における上下分離形態の事例を対象とし、交通機関間および交通事業者間の競争関係を考慮しつつ、線路施設の利用に際して列車運行事業者がどのような料金を負担することが適当であるかについて、経済学の観点から分析するものである。 平成18年度は、線路施設に関する使用料設定について短期的効率の観点から分析を行った。すなわち、既存事業者が所有する線路施設と並行および競合する線路施設が、物理的および技術的な問題から早期には整備されない場合について、線路施設の使用権の配分のあり方を検討した。 まず、線路使用料に関する経済理論を中心に、交通社会資本、中でも不可欠施設(エッセンシャル・ファシリティ)に対する賦課について内外の研究業績の検討を行った。 また、英国の線路使用料設定方式の制度設計の指針およびその背景について現地調査を行った。その結果、線路所有会社であるNetwork Rail社と列車運行事業者との間で、EU指令に準拠した社会的限界費用概念に加え、線路容量制約を背景とする混雑費用概念にも基づいて線路使用料が設定されていることが明らかとなった。さらに、線路の容量制約が当地の列車事故の重要な要因の一つとして認識されたものの、交通機関間の競争のために線路使用料の増額によって投資費用の確保を図ることが出来ず、鉄道事業の再々編と線路所有事業の事実上の再国有化に至ったことが得られた。ドイツおよびフランスの線路使用料の事例についても分析を行い、市場競争や設備投資の水準が線路使用料水準の設定に重要な影響を及ぼしていることが確認された。 ただし、当初、経済理論から導出された使用料設定方式をJR会社の間の線路使用協定に適用して線路使用料を推定することを予定していたものの、機会費用などの推定にあたり必要な資料が十分には得られなかった。それゆえ、平成19年度において引き続き調査を行う予定である。
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