今年度は、主として3つの課題に取り組んだ。第一に、前年度までに進めた企業の組織再編行動研究の発展である。前年度は組織再編行動の選択と再編手法選択の関係を検証した。本年度は、同様の問題意識の下で研究を継続した。すなわち、組織再編行動の経済的動機が何に起因し、市場は組織再編行動にどう反応したかである。検証の結果、組織再編に関して主導的な立場の企業(AF: acquirer firms)に対しても、従属的な立場の企業(TF: target firms)に対しても、市場評価は肯定的だった。一方でTFは組織再編公表日をピークに、株価を下げていくことが分かった。もう一つは、組織再編の際に用いられる会計手法の選好順位に、AFの財務的要因はどのように関わっているかを検証した。これについては、PBR、ROA、フリーキャッシュフローなどの収益性指標、株価指標が肯定的にかかわっているのに対し、当座比率や負債比率などの安全性の指標は関わっていなかった。組織再編意思決定は、収益性の回復を主眼としていることがあきらかになった。 第二に、企業の公表する課税所得に含まれる情報内容を投資家は何との比較の中から認識しているかを検証した。具体的にペアリングサンプルとして抽出したのは、業績指標の中心にある当期利益である。検証の結果、1998年の税制改正を分岐点に、投資家の認識する情報内容に変化が生まれたことが示された。1998年の税制改正は税務会計をより現金主義的な性格へと変化させるものだった。以上から、投資家は課税所得に含まれるより硬度の高い情報内容へ強く反応するようになったという点が明らかになった。ところが、2006年度以降企業は課税所得公表の必要がなくなった。この影響については、次年度以降の分析課題である。 第三に、会計認識構造の変化は、会計基準の変革とともに税制改正の影響が強いという仮説の検証である。そこで、税務会計における会計認識構造を明らかにすべく、税務会計制度の研究を行った。一つは寄付金や交際費といった営業費用における態様であり、いま一つは株式交換・移転のような組織再編行動についてである。これについては、次年度以降の成果として現れることを期待している。
|