今年度は科学研究費支給最終年度ということから、主として3つの課題に取り組んだ。第一に、前年度までに進めた企業の組織再編行動研究の進展である。前年度は組織再編行動の選択と再編手法選択の関係を検証した。本年度は、同様の問題意識の下で、非適格組織再編を行う経営者の経済的動機を調査した。分析の結果、適格会社分割と非適格会社分割の選択は経営者の経済的な動機に関連するという仮説は部分的に採択された。具体的には、営業移転損益(譲渡損益)の金額の程度と非適格会社分割選択にプラスの関係を見いだすことが出来る。これ以外にも、役員の持株割合は非適格会社分割の選択に対して影響を持つことが明らかとなった。この知見は、役員などによる株式の所有割合の高まりが、経営にポジティブな影響をもたらすアラインメント効果(alignment effbct)の一つと解釈できる(Wang[2006])。また、営業移転損益額と実施企業の限界税率との関係についても分析を行った。分析の結果、限界税率が低くて営業移転損益の金額が大きい企業か、あるいは限界税率が高く営業移転損益が小さい企業が非適格会社分割を選択することが明らかになった。 第二に、企業の公表する会計利益と課税所得との差額(これをBTDという)に含まれる情報内容を分析することで、企業の租税回避行為が認識可能か検証した。分析の結果、BTDの拡大は、経営者の利益調整行動とタックス・シェルターを通じた租税回避行為が原因となっている可能性が示唆された。利益調整行動それ自体も、タックス・シェルターを通じた租税回避行為がそのツールとなっている可能性も考えられる。これについては、今後も検証を続けていく必要がある。 第三に、利益の質や実効税率、IR活動など、企業から発信された情報を投資家はいかなるシグナルとして認識しているか検証した。本研究では、特に株主資本コストをその代理変数と見なした上で、Botosan[1997]やBotosan and Plumlee[2002]の知見を参考にしながら、ディスクロージャーへの積極性や利益の質、実効税率と株主資本コストとの間にある関係の分析を実施した。分析により、優良情報発信企業への市場からのポジティブ・フィードバックは、株主資本コストの低減であることが明らかとなった。
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