平成18年度は、利益平準化とビッグ・バスという利益マネジメントが、早期適用企業の減損損失の計上に当てはまっていたかどうか検証を行った。分析は利益の状況以外で特定の経営者の動機を仮定するものではなく、早期適用に対して利益平準化、ビッグ・バスと見られる行動が存在したかどうかを跡づけている。具体的には、わが国の減損会計基準の早期適用企業の調査にあたり、減損損失を計上する前の利益を基準に、その利益の水準ないし変化がプラスの領域にあるかマイナスの領域にあるかに区分して利益平準化仮説およびビッグ・バス仮説を検討した。 実証結果からは、利益平準化仮説が支持されている。つまり早期適用企業は、減損損失計上前の利益の水準ないし変化がプラスの領域において、その額に比例して減損損失額を計上していた。また利益の水準がマイナスの領域においては大きな減損損失を計上しており、その計上が任意であることを考慮すると、ビッグ・バス仮説と整合すると考えられる。また、利益の変化では、比較的大きな減益となったサンプルにおいてビッグ・バス仮説を支持する証拠が得られた。これらから、減損会計基準の早期適用企業においては、利益の状況と減損損失額を比較考量して早期適用を選択し、裁量的に減損損失を計上していることが示されている。 上記の内容は『管理会計学』に投稿し、2006年11月に受理された(近刊)。 本年度はこの分析に加え、強制適用年度における調査に取りかかるための作業を行った。具体的には、分析に使用できる企業の選択、強制適用企業(早期適用企業以外の全社)における役員交代の有無などである。
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