研究概要 |
総務省によれば,地方自治体による財務報告の目的として,意思決定に有用な情報の提供と公的説明責任とが措定されている。まず意思決定に有用な情報の提供について,第1の利用者として想定されている市民が投票の際に自治体の財務報告にもとづいて意思決定をおこなうという前提に問題なしとしない。まな,納税をもって,市民による資金提供とみなす点にも無理がある。また公的説明責任についても,総務省が想定するような行政コスト計算書では,コスト(インプット)情報を明らかにするにすぎず,説明の責任は果たしているものの受託した資源の効率的な利用についての説明は十分であるとは言い難い。さらには,市民は地方自治体に委託した資金の使途についてほとんど無関心であり,その使途について自治体にクレームをつけるということは通常考えにくく,たんに財務情報を公表するだけではパブリック・ガバナンスは期待できない。 上述の問題にもかかわらず,近年,自治体において会計改革が積極的に進められてきている意義は何なのであろうか。この点を考察するのに有効な視点を与えてくれるのが,制度化パースペクティブである。すなわち,企業会計手法の導入は地方自治体にとって正当性の確保のための1つの手段なのである。会計手法を改革することによって,地方自治体は財政再建に積極的な姿勢を示し,健全な組織であると見なされようと努力しているのである。 さらに,地方自治体の会計改革は強制的同型化とみなすことができる。多くの報告書や基準は総務省や内閣といった権威から分表されたものであり,地方自治体における会計改革は,これらの報告書や基準によって方向づけられているためである。そして,自治体が参考にすべきモデルとして公表された総務省方式は,企業会計手法の導入という方向性とは裏腹に複式簿記の導入を強制するものではなく,「分離」とみなすことが可能である。
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