コーチングに関する文献を収集し、エンパワーメント研究の中での位置づけを行った。具体的には、まず、企業環境の激変に伴うマネジメントスタイルの変化から、これまで以上に上司と部下のコミュニケーション量が増えるとともにその質に企業の命運がかかっていることを明らかにした。また、コミュニケーションを促すエンパワーメントが機能しない原因を、エンパワーメントのハードな側面ではなくソフトな側面に求め、そこにコーチングの必要性を見つけ出した。次に、コミュニケーションの質を高め、その量を増やす考え方・方法としてコーチングを捉え、コーチングの定義、前提およびスキルなどを整理した。最後に、コーチングのいくつかのケースを用いて、コーチングが組織成員に与える影響やエンパワーメント型会計情報との関わりを考察した。 以上の考察を通して、まず、フラット型組織構造やマネジメントコントロールで用いられる会計情報をエンパワーメントのハードな側面として捉え、このようなハードな側面だけをいくら整備してもコミュニケーションは促進せず、組織成員の考え方、人との接し方およびコミュニケーションの仕方などのエンパワーメントのソフトな側面に焦点を当て、コーチングによって指示・命令型から質問型のコミュニケーションへ変化させ組織成員同士のコミュニケーションの質を高めることがエンパワーメントの促進に欠かせないことを明らかにした。次に、コーチングが組織成員の考え方やコミュニケーションの仕方などのエンパワーメントのソフトな側面を充実させ、組織成員が「行動したい」と思えるような心理的環境を作り出し、組織成員が「行動したい」と思った時にエンパワーメントのハードな側面が整備されていれば、ますます自立および自律的に行動することができるというエンパワーメントの促進サイクルを明らかにした。
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