会計情報のなかでも、資産の時価情報の信頼性に焦点を当て、平成19年度には次の3点について研究を行った。第1は、2004年3月期と2005年3月期における減損会計の早期適用企業を対象に、回収可能価額の測定に関する実務の実態を明らかにした。第2に、測定をめぐる経営者のインセンティブに関する仮説を構築し、測定値にかかりうるバイアスの存在を検証した。第3に、こうした時価情報の信頼性を高めるための会計基準設定上の試みとして、イギリスにおける実務の発展を検討した。 第1については、以下のような結果を得た。(1)資産のグルーピング方法が不明である企業が2005年で約3割にのぼる、(2)正味売却価額の算出は多様であり、客観性が高い市場価格を参照するケース、および不動産鑑定士など社外の第3者に依頼しているケースは少ない、(3)使用価値の算出に用いる割引率は多様であり、企業によって幅がある。これらの分析結果をまとめると、時価の測定は多様かつ主観的であり、その算出方法の説明も不十分な点を残しており、時価情報の検証可能性は必ずしも高くないといえる。 第2については、財務的健全性の高い企業ほど相対的に保守的な時価が算定される測定方法を選択する傾向を明らかにした。測定される時価情報が中立的であるならば、企業の財務的健全性と測定方法は有意な関係をもたないと考えられるが、本分析結果によれば、両者に有意な関係が認められた。この結果から得られるインプリケーションは、測定方法の選択とその結果算出される時価情報にバイアスが存在する可能性があり、このことから時価測定の信頼性を損なわせる要因が存在しているということである。 第3については、資産時価の信頼性(あるいは客観性)を高めるために、割引現在価値の利用を回避する試みが行われてきた経緯を明らかにした。
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