本年度は、まず、企業が、財の潜在需要に関してベイズ学習する投資動学をできるだけ簡単にモデル化し、その質的特性を分析を行なった。具体的には、財の潜在需要が一様分布にしたがい、設備の耐用年数が無限という特殊な仮定をおいて分析した。動的計画法の手法を用いて、企業の設備投資パターンが時間軸に対して、凹関数になることは明らかになったが、関数形が想像以上に複雑であったため、これ以上の数理分析は得策ではないと判断した。そこで、実証分析に利用しやすいように、モデルを組み直し、分析とデータ解析を開始した。このモデルでは、財の潜在需要の分布形を正規分希に変更した上で、ある種のレジーム・スイッチングを考え、同じく正規分布する持続的なショックと一時的なショックを導入している。 これとは別に、Ohlsonの線形情報動学を二次元へと拡張したベクトル自己回帰モデルの分析を試み、一定の比較静学の結果を得ることができた。Ohlsonモデルや、その拡張が残余利益の動学を考えるのに対し、この拡張モデルは、自己資本と利益とが互いに関係を維持しながら変動していく動学をベースに、クリーン・サープラス関係を経由して、配当割引モデルを自己資本と利益の観点から表現し直したものである。次年度の早いうちに、論文にまとめる予定である。 また、企業価値評価に関する私的情報を得た経営者が二世代の株主グループに公正価値意見のかたちで情報提供するモデルの分析を行ない論文にまとめた。この論文は、2006年11月にJournal of Legal Studiesにアクセプトされている。2008年1月出版予定である。
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