昨年度は、配当を自己資本と会計利益の一次式で表わし、企業の収益力を一期前の自己資本と会計利益で表わした2つの式から、二次元のベクトル自己回帰モデルを導いて、これとクリーン・サープラス関係とから、線形評価式を導いた。今年度は、あらかじめ、一般化したかたちで、ベクトル自己回帰のモデルを想定し、一般的なクローズド・フォームの線形評価式を導くことができた。 つまり、価値関連性研究で多用される会計利益と自己資本の線形評価式に理論的根拠を与えるだけでなく、アクルーアル、キャッシュフロー、自己資本の3変数の線形評価式など、一般の価値関連性研究の評価モデルに理論的基礎が与えられたことになる。さらには、アクルーアルを、現金預金の増分、在庫の増分、設備の増分などに細分化して、企業価値評価モデルを構築することもできる。企業価値評価には、Ohlson-Juettnerモデルのように、和がゼロとなる無限級数に着目して、クリーン・サープラス関係を使わないものもあるが、クリーン・サープラス関係を使うモデルについては、この線形評価式が統一的なフレームワークになるものと思う。 しかし、このフレームワークの中で、本研究が着目する利益資本動学やアクルーアル・キャッシュフロー・資本動学は、残余利益動学を拡張したものではないので、特殊な場合をのぞいて、Modigliani-Miller (MM)の配当無関連性命題を充たすかたちになっていない。現在のところ、MM特性を充たしていると、企業価値評価上の優れた予測につながるという証拠はないが、MM特性を充たしていないモデルが優れているという証拠もないので、実証研究によってこれを確かめてみる必要がある。
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