研究概要 |
日本における管理会計研究においては投資決定を財務的な視点から、その合理性について議論することが多かった。投資決定を人間の意思決定活動としてとらえた場合,このような解釈は一面的である。そこで,まず理論研究として,戦略的投資決定,そしてその業績管理会計との相互関係のフィールド調査のためのフレームワーク構築を行った。D. Northcott教授の著書Capital Investment Decision-Makingにあるように,投資決定は,そのプロセスからも影響を受け,一見計算構造上非合理的にみえることが行われる。しかし,合理性には計算合理性,組織的合理性,政治的合理性といった複数の合理性が存在し,投資決定もそれらのバランスをとって行われる。このような種々の合理性の存在は,これまで計算合理性に偏重し,研究を行ってきた日本の投資決定研究に対して,大きな進展をもたらすフレームワークとして可能性を有している。 次に,理論研究と同時並行に行ったフィールド調査からは,以下のような知見が得られた。これまで日本企業は貨幣の時間価値を考慮しない回収期間法を利用しているをされてきたが,回収期間法にも貨幣の時間価値を考慮する方法(割引回収期間法,割増回収期間法)が存在しており,現に新日本製鐵株式会社では,30-35年前から独自に工夫を行い貨幣の時間価値を考慮する割引回収期間法を利用している。回収期間法を利用するすべての日本企業がこのように貨幣の時間価値を考慮した回収期間法を利用しているかどうかは確かではないが,回収期間法の利用が計算構造上,必ずしも非合理的な投資経済計算ではなく,計算合理性を有しうることが明らかになった。
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