研究初年度であるH18年度にはディスクロージャー戦略として、会計政策、会計不正、そして包括的情報開示の三つに焦点を当てた。 まず会計政策に関しては、今年は会計利益と課税所得の差異(BTD)について着目し、その規定要因についてのレビュー並びに実証研究を行った。その結果、多様なBTDの推定方法各々に利点と欠点があることを明らかにした。また、これらの規定要因についても検証し、制度要因だけではなく、ガバナンス要因についてもBTDの発生に影響を与えていることを明らかにした。 会計不正の研究では、会計不正は自らの状態を知る前に事前にシステマティックに行われる活動と定義し、ゲーム理論を用いてこの活動がどのような条件で抑制されるのかについて分析した。その結果、不正が発覚した際に経営者を訴えることが容易であることは会計不正を減じるのに役に立つことを示した、一方で、経営者に厳罰を与えるという仕組みが会計不正を減じる効果は限定的であること等を分析的に明らかにした。 包括的情報開示の効果についての研究ではステークホルダーアプローチの観点から実証的な検証を行った。この立場からディスクロージャー戦略の効果を測定するには、資本市場の観点でなく、コーポレート・レピュテーションという尺度で測定することがより望ましい、と考えられるため、両者の関係を検証した。その結果、コーポレート・レピュテーションと包括的情報開示との間には正の関係があるとの証拠を提示した。これは包括的情報開示がステークホルダーとの関係改善に役に立っていることを示唆するものといえよう。
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