研究概要 |
前年度の研究では、異常発生項目として計測されるノイズが利益のキャッシュ・フロー予測能力を低めていることを確認した。本年度は、この分析をさらに進め、異常発生項目によるノイズを考慮した上で、利益とキャッシュ・フローの将来キャッシュ・フロー予測能力を比較した。分析の結果、発生項目、すなわち利益に比較的大きなノイズが織り込まれている場合であっても、利益の方がキャッシュ・フローよりも相対的に高い予測能力を有していることが明らかになった。これは、発生主義会計のシステマティックな機能が、ノイズによって相殺されることなく会計利益に働いていることを裏付けている。 さらに本年度は、発生項目が経営者の会計的操作のみならず、実体的操作の影響を受けることに着眼し、実体的報告利益管理(earnings management through real activities manipulation)の視点から発生項目を分析した。分析の対象とした実体的操作手法は、Roychowdhury(2006)で採り上げられている売上操作、過剰生産および経費削減の3つである。金融保険業を除く上場企業の連結決算9,748企業一年をサンプルとし、損失回避企業における実体的操作について分析しているが、現在までのところ、売上操作および過剰生産と首尾一貫する証拠を得ていない。むしろ結果は、損失回避企業が運転資本を流動化させていることを示唆している。一方、経費削減に関しては、企業が製造・仕入費用の上昇を経費削減で吸収していることを示す強い証拠を得ている。
|