研究概要 |
これまで、統計的に推計された誤差(ノイズ)という視点から発生項目の質を捉えてきた。本年度は、この視点をさらに拡張し、発生項目の質をその背後にある情報内容をも包含した幅広い視点から捉える試みに挑戦した。そこで、発生項目の質をより広く捉えるべく、減損損失に着目した。その理由は、減損損失が経営者の実体的な裁量行動ともいえる企業再編(リストラクチャリング)と深く関係し、その公表が固定資産に係る損失を表面化するのみならず、その背後にある経営者のリストラクチャリング努力の程度を明らかにするという一面を併せ持っているからである。東証1部上場の一般事業会社7,896企業-年を対象に分析した結果、過剰投資の問題を明らかにする減損損失の公表は、経営者が廃棄オプションの引き金を引き、不採算プロジェクトを整理することを規律付けるイベントとして機能していることが明らかになった。さらに、公表時までにリストラクチャリングの努力が足りない減損損失に対しては、同額の減損損失よりも、株価が相対的に大きくネガティブに反応することが明らかになった。経営者が不採算プロジェクトを整理せずに減損損失が公表されるならば、株式市場はそれに対して株価の下落というペナルティを課すのである。この結果は、同じ会計的な損失額であっても、その背後にある経営者の努力によって、市場が評価を分けることを示唆している。ここに、発生項目の質という視点から利益と株価の関連性を考えるとき、単にノイズという側面を捉えるのみならず、その背後にある情報内容についても慎重に把握することの必要性が実証された。
|