本課題は、地域間比較の視点のもとに持続可能な地域自治を探求する課題の準備作業と位置づけられている。課題の第一は、東京圏内、あるいは東京圏と非東京圏の亀裂の状況を、より総合的に明らかにすることであり、これについては法政大学出版局刊『越境する都市とガバナンス』および東信堂刊『講座地域社会学第1巻』に執筆した論稿において見取り図を描いた。第二の課題は、その亀裂状況をこえて、持続可能な自治のモデル(ビジネスモデルならぬガバナンスモデル)を国内外の事例を参考にして探求していく.ことである。後者の目的のため、本年度始めに提出した申請書では、(1)新潟県巻町・柏崎市への再訪問(2)統計分析・比較作業(3)ドイツ・フライブルグ市など欧州諸都市の訪問と調査準備、の3点を計画していた。このうち(2)は、上記論稿で着手した段階に止まり、また(1)は諸事情により実行できなかった。一方(3)については、英国ケント大学を拠点に事例収集と調査準備を行ったが、英国においても持続可能な地域づくりと言える多くの事例が存在することが判明し、他の欧州諸国への訪問は先送りすることとした。英国内では、持続可能な地域づくりの事例として著名なレッチワース、ブリストル、シェフィールド、東ロンドンなどを訪問し、基礎的な資料収集等を行う一方、ケント大学を拠点に必要な政策文書、研究資料などの収集・分析、関連する研究者との交流などを通じて、欧州の持続可能な都市づくりにおける基礎的文脈の理解につとめた。とりわけ、ロンドンのドッグランズ再開発については、その都市民主主義の機能に着目しており、来年度深めていきたい論点の一つである。本課題が中期的な事例収集・理論形成の準備作業であることは、平成17年11月の申請時点で強調した通りで、上記のような調査事例の軌道修正・変更は認容されよう。
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