小笠原諸島には、1830年以降、欧米諸地域や太平洋・インド洋・大西洋の島々から、入植者、寄港船からの脱走者、漂流者、略奪者など、雑多な人びと(以下、子孫を含め先住移民と表記)が上陸・移住してきて、同諸島を結節点とする自律的な生活世界を形成っていた。だがこの島々は、日本帝国が形成される過程で、「小笠原島回収」の名の下に占領され始める。そして、それまでに世界各地から移住してきていた先住移民は、日本帝国の出先機関の説諭と命令によって、1882年までに全員が臣民に編入され、「帰化人」と呼ばれるようになった。かれらは、次第に「異人」などと名指され差別の対象となっていく一方、臣民の一員として日本帝国の戦争に動員されていく。 平成18年度は、1944年に「内地」への強制疎開を経験した先住移民が、日本帝国の敗戦前後や戦後をどのように生き延びたのかについて、インタヴュー調査を行った。とりわけ今回は、1946年にGHQによって先住移民のみが帰島を許された際、帰島を選択しなかった人びと(の子孫)を各地で探索し、そのうち数名の方から話を聴くことができた(但し、内容の公表については現在も交渉中である)。また、各公共図書館や国内外の各大学が所蔵している、公文書・日米軍関係文書・日誌・手記等から、当該期の先住移民の生活世界をうかがうことができる資料を、探索・収集し、分析を進めた。 並行して、19世紀から20世紀初頭の小笠原諸島を中心とする博士論文(既提出)の考察に、20世紀半ばを対象とする本研究課題初年度(平成18年度)の成果を加えた考察を進め、小笠原諸島の"近代"経験に関する単著の執筆を進めてきた。これは、『近代日本と小笠原-移動民の島々と帝国』と題して、平成19年夏までに平凡社から刊行予定である。
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