1944年、小笠原諸島を米軍との地上戦に利用しようとした日本軍は、大多数の住民を「内地」に強制的に疎開させた。1945年に小笠原諸島を占領した米軍は翌年、日本帝国のもとで「帰化人」として掌握されていた先住移民とその親族約130名のみに帰島を許可し、父島の秘密基地化を進めていった。 本年度は再度小笠原諸島におもむき、(1) 1945〜1968年の米軍占領下の父島に帰還を許された先住移民の労働・生活状況や意識過程、(2) 1968年に実施された小笠原諸島の米国から日本への「施政権返還」に対する先住移民の意識や行動、(3) 「施政権返還」後も米国移住等を選択せず父島に住み続けた先住移民の労働・生活状況や意識過程に関して、重点的なインタヴュー調査を実施した。前年度までに十分データが得られなかったトピックについても、補充調査を実施した。また関係各機関において前年度までに未収集・未読であった関連文献資料の入手に努め、読解・分析を進めた。 これらの調査研究の結果、小笠原諸島の先住移民が、戦時期から戦後にかけてのアジア太平洋の構造的再編に伴う矛盾の前線に置かれ、重ね書かれる主権的な力に翻弄されながら、国家・帝国の法に服属したりこれとわたりあったりしつつ、したたかに生き抜いてきた試行錯誤のプロセスを、歴史具体的に明らかにできたと考えている。 なお本年度に本研究課題が受けた学術的評価として特筆されるのは、本研究課題の成果を含む著書『近代日本と小笠原諸島--移動民の島々と帝国』(平凡社、2007年)が第7回日本社会学会奨励賞(著書の部)を受賞したことである。
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