今年度は、(A)パソコン要約筆記、(B)裁判所の速記、(C)テレビ字幕業、(D)ネット上のキャプション入力コミュニティについて、コミュニティ形成や人材育成を中心にデータ収集をおこなった。 調査期間を通して得られたデータは膨大なものとなった。「キャプション入力の専門性」に焦点を当てた通時的・共時的な比較分析については、今後、数本の論文にまとめるべく、執筆中である。 以下は、上記の(A)-(D)に対応した論点の一部である。 (A) : 従来のキーボード入力に加えて、学術の分野を巻き込んだ音声入力技術の向上がめざましい。 (C) : 本研究の開始当初と比較して、現在、テレビの字幕は、飛躍的に向上している。達成率を明示した期限付きの法律が定められていたことや、字幕の付与がちょうど地上デジタル放送やワンセグ放送による機材/システムの入れ替えと軌を一にしたということもあっただろう。字幕付与の方式はさまざまであるが、今後を見据えると、キャプション入力にかかるコストが問題になってくると思われる。国内と海外の比較、方式ごとの比較が課題である。 (D) : インターネット上で独自に字幕配信をしている組織が活性化している。これとは別に、youtubeやニコニコ動画においては、いわゆるweb2.0的に、映像に対する字幕の付与が行われている。ただし、ここでは、オリジナルとして音声との同一性を重視するかどうか、が問題となる。つまり、次の二種類の字幕力弐あるということだ。(1)音声の翻訳のためあるいは音声と同時に発信されるコミュニケーション手段としての字幕、(2)もともと字幕としてなんらかの意図をもって発信される純粋な字幕。前者ではオリジナルデータとの同一性が第一に重視されるが、後者では違う。キャプションそのものがオリジナルのメッセージをもっていたり、オリジナルとのズレを楽しむことが目的であったりする。
|