本年度は、申請文書で示した通り、青年期移行問題の一つといえる「ひきこもり」に関わる民間活動・運動についての調査研究を行うと同時に、そうした諸活動が現在的な社会的文脈に照らして有する意味について検討し、論文の執筆を行った。調査としては、2001年より継続的に調査対象としてきた「ひきこもり」経験者の社会復帰支援施設において、とくにメンタルヘルス専門領域(基本的には精神医療に関わる)との関係について、観察とインタビューを行った。また、東海地区の「ひきこもり・親の会」でも調査を行った。この調査地点では、厚生労働省「ひきこもり」地域対応ガイドラインの作成で中心的役割を果たした精神科医の話しを採取すると同時に、申請者自身が講師役としても参加した。そのため、支援活動と精神医療との関わりに関する知見を報告し、現場関係者からの反応を採取できた。また、関東地区のセルフヘルプ・グループについて詳しい調査者とも情報交換を行った。こうした調査活動と資料収集を通して、「ひきこもり」支援活動では、「脱医療化」の志向性は薄く、むしろ、当事者と医療とを選択的・間接的に結びつける役割を果たしていること、その結果として、一部当事者(本人と家族)の「障害受容」の条件となりえていることが確認された。また、支援空間は、いわゆる「健常」とされる青年から「統合失調」と診断された人びとまでが混在する、多様性の高い空間であり、そのことが、葛藤も含みながらも、当事者たちのメンタルヘルスに対して正に作用していることも伺われた。なお、執筆した論文では、調査データをもとに、とくに個人化という文脈から、支援活動を、「自己」の再構築に関わるという意味で、現代における重要な運動の一つとして位置づけた。また、資料収集を通して、メンタルヘルスに関わる社会学的研究の一つとして、シャイネス(Shyness)についてのレビュー論文も発表した。
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