今年度は、本研究の目的を達成するための予備的段階として、事例地(岐阜県郡上市八幡町=以下、郡上八幡)におけるタノモシ(頼母子)の現状把握と、そのようなタノモシへの分析視角の形成を目指した。 今年度、研究代表者が事例地にて聞き取り調査および参与観察を実施した範囲では、郡上八幡におけるタノモシは、同級生・近隣・店の常連・趣味の仲間といった"水平的なつながり"を基盤にしながらも、大別して2つにタイプ分けが可能である。まず1つめはメンバー全員のお金(=タノモシ料)を各メンバーに順番に配当するタイプと、もう1つはタノモシ料を全員でセリをして2番目に高い値をつけた者に落札させるタイプである。タノモシの意味を探るうえで重要なのは、どちらかといえば、後者のセリをするタイプであろう。そのやり方は、全員のタノモシ料に対して、各人が「伏せ札」という紙にいくらでセリ落としたいかをあらかじめ記載し、メンバー全員にわからないよう講長に提出する。その後、飲みながら、合間に複数回、各人が他のメンバーの顔色を見ながら「伏せ札」(書いた本人以外、金額はわからない)に書いた値段に上乗せする「買う」という行為を行なう(たとえば、「100円買う」と声に出し、講長がそれを記録する)。最後に、各人が複数回どれだけ「買った」か、を計算するとともに、あらかじめ書かれた「伏せ札」を開示して各人の総合計を集計し、2番目に高値をつけた者がその月のタノモシ料を落札する権利を得る。 このように、もはやタノモシは、生活の必要に迫られてというよりも、一つの楽しみになっているのであるが、さらに考えなければならないのは、タノモシの楽しみをうみだすのに、どうしてセリをしなければならないのか、である。この点から、具体的なモノの再配分のしかたと地元の社交世界との関係に焦点をあてて、さらなるフィールドワークと理論研究を続けなければならない、と研究代表者は考えている。
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