平成20年度の研究は、課題研究を遂行する上で必要となる資料収集とその整理、研究成果のまとめと発表に重点をおいた。 日本原水爆被害者団体協議会の事務局では昨年度に引き続き、課題研究で重点的に分析する1980年代と1970年代後半の運動についての資料の発掘・収集を行った。具体的には、運動方針の草案、代表者会議の議題や議事録、国会要請運動関係の資料、国民法廷運動などの資料を収集し、テーマ別に整理した。また、昨年に引き続き、被団協運動に関わってきた関係者たちから、1970年代後半から1990年代にかけての運動(特に国家補償、援護法制定要求関連)について聞き取り調査を行った。在韓被爆者の補償要求運動に関しては、裁判関連資料を収集・整理した。また、韓国被爆者協会や関係者を訪ね、前年度のフォローアップ調査を行った。 さらに、研究成果の報告を兼ねて、いくつかの口頭発表と論文発表を行った。具体的には、Interrogating Trauma Conferenceで「原爆の絵」の表象から見とれるトラウマ記憶の性質、そして原爆を生き残った者の証言行為が<現在>へのいかなる介入になりうるかについて、トラウマ研究や精神分析、情動に関する研究・理論群を援用して分析した。関西社会学会大会の「被爆がもたらす<意味>の現在」シンポジウムでは、「被爆者」と「原爆被害」の概念が医療と法言説によってつくられてく様相と原爆の記憶を表象するにあたって医療・法言説がいかなる力を及ぼしたかについて被爆体験記を取り上げて分析した。また、「国家補償」と、「原爆被害」の概念をめぐって被団協運動と国の被爆者援護施策が繰り広げてきた言説上・政治上の闘争について考察した論文(共著、『ナガサキから平和学する!』)と、「原爆の絵」の作者の記憶と語りについてトラウマ研究の見地から考察した論文(『国立歴史民族博物館研究報告』)を発表した。
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