研究概要 |
今年度は,昨年度に引き続き,特に「逸脱の医療化」に関する欧米における研究論文の収集と整理を中心とした研究を行った。また,同分野と関連が強いと考えられる「スティグマ」の社会学についても併行して文献研究を進めた。これは,「不登校」をとりまく諸現象のうち,本人はもちろんのことだが,親,とりわけ母親が被ることの多い挫折感と「医療」の対象として見られることの関連を考察することを目指すからである。古くは,T.パーソンズが指摘したように,「医療化」の側面には,その「患者」としての役割を引き受けることで,その本人が社会的な義務を免除されたり,免責の感情が生まれることがしばしば見受けられる。 しかし「不登校」の場合,歴史的にこの点が機能七てこなかったことがひとつの特徴としてあげることができる。同時に,これら欧米の研究では,その周囲にいる人間,とりわけ当人に関わりが深い人間への影響は,一部を除き十分に目配せされてきたとは言い難いが,「不登校」については,まさにその点にも大きな特徴がある。よく知られるような母親たちを中心とした「不登校は病気じゃない」という異議申し立ては,「不登校」という現象がもっているこうした特異な点を考察しなければ,その意味をくみ取ることは不可能である。この点については,現在作業仮説ができあかっており,これをもとに最終年は聞き取りを進めていきたいと考えている。
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