本研究課題は、住居空間を社会学的にとらえる枠組を構築し、その構成と変容を実証的にとらえることを目指している。現時点では、住居をめぐる社会学的研究は、確立した方法を対象に適用できるところまで成熟しているとは言えない。そこで、方法の探求自体に重点を置き、次の3つの目標を設定した。1)理論と実証の両面において蓄積されてきた英語圏における社会学的な住居研究の現状を把握する。2)日本の近代化という文脈のなかで形作られながら、社会学においてはほとんど省みられることのなかった住居研究の系譜を再構成する。3)「住居の質」をめぐる言説およびマクロデータの収集・分析と意識調査を通じ、現代日本社会をフィールドとした研究の展開を図る。本年度は、このうち、主として1)と2)を進めた。 1)については、1980年代から、英語圏において「ハウジング・スタディーズ」と総称しうる生産的な研究群が現われた。近年では、メディア、日常生活、階層、健康などについての研究との関連をもちながら、住居の「意味」や「使用」そして「質」についての議論が活発化している。これらの基本的な文献を、研究の系譜と広がりを重視した上で体系的に収集し、その視点と方法論の整理に着手した。 2)については、戦前から戦後初期に至る時期に試みられた住居研究に着目した。この時期の住居研究は、政策形成や生活改善といった問題意識に支えられながら、民俗学、貧困研究、家族研究などとの一定の連携のもとに展開された。それらは身体と環境の相互作用や住居の意味についての探求が含んでおり、「ハウジング・スタディーズ」にも通じる領域横断的な試みであった。こうした研究実践の現代的意義について考察するため、関連資料を収集し、内容を検討した。
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