本研究課題は、住居空間を社会学的にとらえる枠組を構築し、その構成と変容を実証的にとらえることを目指し、次の3つの目標を設定した。1)英語圏における社会学的な住居研究の現状を把握する。2)近代日本における住居研究の系譜を再構成する。3)「住居の質」をめぐる資料の収集・分析と意識調査を通じ、現代日本社会をフィールドとした研究の展開を図る。本年度は、昨年度に引きつづき1)と2)を中心に研究を進めた。 1) ハウジング研究のうち、とくに住居の「意味」「使用」「質」に関する研究群に着目した。使用という身体的な実践を通じた空間への意味づけに着目する視点が、住宅の「質」や、住居に何が必要とされているかについて、単なる技術的な対策にとどまらない考察を可能にすることが分かった。 2) 上記のような視点にもとづき、日本の住居研究を再検討した結果、住居の価値を、労働力再生産を中心とする住宅の「機能」に一元化し、その充足の程度によって質を測定するという方法が、政策・研究の双方において再生産されてきたことが明らかになった。 1)および2)については、学会や研究会等での報告として研究成果の一部を公表し、建築学・社会政策学の研究者と意見交換を行なった。また、博士論文をもとにした図書では、改稿の過程で、本研究課題を通じて得られた新たな知見を取り入れることができた。ただし、昨年度着手した3)については、現時点では成果を公表する段階にいたっておらず、今後も研究を継続する予定である。
|