本年度は理論研究として、前年度に行った中国と日本で行われた「中国人論」の整理を踏まえて、日中の国民性の違い、文化の違いを語るポイントを抽出する作業を行った。日中比較文化論をテーマとした書籍を検索し、特に陳舜臣の書き下ろしを中心に理論的な整理を試みた。その成果を「日本人と中国人:国民性比較論の検討」という研究ノートにまとめ、『駒澤社会学研究』に公表している。 実証研究は、日本と中国の草の根NGOが交流する現場に身を置き、参与観察を中心とした調査研究を行った。8月にボランティア活動国際研究会(日本の草の根NGO)の代表と、日本NPOセンターのスタッフの訪中に同行し、北京近辺にあるいくつかの草の根NGOを訪問し、交流の経過を観察した。9月にETIC(社会的起業を支援する日本のNPO)の代表団に加わり、再度北京を訪問し、現地のNGOや社会起業家との交流に参加した。12月には中国の知的障害者支援NGOの代表者が、ボランティア活動国際研究会の代表の招きで来日し、講演会を開催した際に、通訳を担当しながら参与観察を行った。同じく12月に、ETICの招きで中国の最も代表的なNGO人と社会起業家が来日した際も、その全日程に参加した。更に2008年2月に、中国の草の根NGOを管理する行政機関の担当者が視察に来日した際も、日本のNPOの視察日程のコーディネートに加わり、日程に同行し参与観察を行った。これら一連の参与観察を通して、草の根活動に関する考え方の相違や、市民文化の創出の仕方の相違についていくつかの示唆を得ることができた。また、人間関係、信頼関係を作っていく上で重要となる要素もいくつか浮かび上がった。それらの成果を現在論文にまとめている最中であり、来年度学会で発表した上で、学術雑誌に投稿する予定である。科研費は旅費と謝金に用いた。 最後に、2年間の執筆と翻訳、編集の作業を経て、『台頭する中国の草の根NGO:市民社会への道を探る』は、恒星社厚生閣から3月に出版された。日本では中国の草の根NGOと市民社会を主テーマとした唯一の書籍である。
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