昨年度の研究活動としては、広島県呉市における海事歴史科学館における資料収集(5月)、長野県長野市における資料収集(8月)、長野県栄村における戦争体験の聞き取り (8月および3月)を行い、これらと関連して慶應義塾大学COEプログラム「多文化世界における市民意識の動態」の第四回シンポジウム(11月)の部会「戦争体験と戦後社会」における報告「『戦争体験』とは何か?〜風化する『戦場の記憶』をめぐって」が成果としてあげられる。この報告では、村での戦争体験における「戦場」をめぐる位置づけが、たとえば大手新聞社による戦争体験記集などに比べて非常に重いこと(後者では戦場よりもむしろ空襲や敗戦直後を含む市民生活との関係で戦争体験が語られる)を指摘し、戦争体験の語りにおいて「戦場」を中心とする総力戦型の「戦争の記憶」と、「生活」を中心とする冷戦型の「戦争の記憶」との差違において、「地域における戦争の記憶」を考察する重要性が主張された。戦争体験や「戦争の記憶」を地域社会との関連でみてゆく視点はきわめて重要なものと言え、次年度以降も引き続き聞き取りと分析を継続していく必要がある。なお、この論文は、浜日出夫編『戦争体験と戦後社会』(仮・慶應義塾大学出版会)として2007年秋に刊行される予定である。 また、冷戦と「戦争の記憶」の関係という視点も重要である。お茶の水女子大学教育プログラム「共生社会とコミュニケーション」シンポジウムにおける報告「戦争とメディア〜メディア論の『出自』をめぐって」(12月)では、集合的記憶の社会的構成における重要な仕掛けである「メディア」の問題についての考察を発表した。 戦争体験や「戦争の記憶」をめぐるこれらの成果は、市民団体(NPO「自費出版ネットワーク」)において「戦争体験記の意義」として講演されたほか(4月)、新聞記事「『過去』が『歴史』へ変わるプロセス」(朝日新聞、12月)における研究者紹介において言及された。
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