2年間の調査および研究を踏まえ、論文「地域社会と『戦争の記憶』-『戦争体験記』と『オーラル・ヒストリー』」(関西社会学会『フォーラム現代社会学』第7号、世界思想社)を執筆した。これは前年度の関西社会学会の大会シンポジウム「オーラルヒストリーと歴史」での報告を踏まえたものである。この論文は、本研究によって集められた調査データを網羅的に使用したものではないが、「戦争の記憶」をナショナリズム(批判)に直結させるのではなく「地域」という集合性の準位において考察するのは、本研究における重要な知見であり、独創的な点であると思われる。 また本研究の根幹をなす、長野県北信地方(栄村)での戦争体験に関する調査も、本年度も継続して行われた。本年度は、従来から継続して行われている体験者へのインタビューの他、軍恩連盟栄村分会についての村役場でのインタビューや隣村(野沢温泉村)役場でのインタビューなども行った。また、村内に散在する戦没者記念碑や戦死者の墓などについての予備調査を行った。全村に対する調査は、21年度以降行う予定である。 また、愛媛県松山市が取り組む、「歴史」を素材としたまちづくりについても二度の調査を行った。歴史的な展示や景観と地域社会との関係、それがまち作りというかたちで具体化・空間化されていることについての重要な研究になると思われる。訪問調査では、松山市役所「坂の上の雲」まちづくりチームへのインタビューのほか、学芸員へのインタビュー、常磐同郷会事務局長へのインタビュー、松山市立図書館、松山大学図書館での文献調査などを行った。その成果としての論文の執筆は年度内には不可能だったが、21年度中に研究論文を書く予定である。
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