本研究の目的は、フィリピン、マニラ首都圏における公共集合住宅を調査対象として、都市を取り巻く諸変容の中で、住民がいかに家族・親族関係、そして地域社会を再構築してきたかという点を明らかにすることである。3年計画の初年度に当たる平成18年度は、8月初旬から9月初旬にフィリピン、マニラ首都圏に滞在し、まずマルコス政権期までのフィリピンの都市住宅政策、都市住民の生活実態に関する先行研究・報告書・関連資料の収集とその分析を行った。フィリピンではアメリカ植民地期以来、首都圏の住宅不足の解消のために、スラム住民の再居住地区の建設や住宅地の分譲と並んで、やや大規模に行われたマルコス政権期の居住環境省による集合住宅(BLISS)の建設を含め、様々な政府機関や公社によって公共集合住宅が散発的に建設されてきたこと、またこれらの公共集合住宅建設に対しては、貧困層を対象としたものではないという批判が常に向けられてきたことなどが明らかとなり、次年度以降の、1960年代、1980年代に建設されたマニラ首都圏の公共集合住宅における家族・近隣関係についての調査の歴史的背景となる知見を得た。 また、次年度以降の調査課題の設定のために、フィリピンの家族関係、特に都市及び農村における育児に関する文献の収集と分析、さらには農村部と都市部での聞き取りも実施した。農村部における近親者のネットワークの中での育児と、都市中間層において極めて顕著である地方出身の家事労働者による育児という偏差の中に、集合住宅住民の近年の育児をめぐる社会関係の様態を位置付けるという一つの課題が浮上した。なお、この家族関係に関する資料収集の成果の一部は、フィリピン大学アジアセンターにおける講演で報告した。
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