研究概要 |
本研究の課題は、消費者信用と多重債務に関わる紛争のメカニズムを解明し、紛争の防止と、公正で迅速な紛争処理のための制度の設計と運用について、社会学的処方箋を示すことである。これに対して、最終年度にあたる本年度の研究成果は次のとおりである。1. 各国の多重債務対策と非営利組織の活動-(1)2006年に欧州で発足した非営利組織・政策立案者・学術研究者らによる多重債務問題の解決を目指した国際連絡組織の設立経緯・活動内容について、07年度実施の現地調査を元に考察し、これを欧州の消費者政策や理念の文脈に位置づけ評価した(雑誌論文no.1)。(2)金融自由化後の台湾の消費者金融市場の急成長と多重債務問題の発生・拡大、これに対する行政・司法・立法の対応、さらに台湾金融市場への日本企業進出の動向について、07年度実施の現地調査の補足調査をし、成果をまとめた(雑誌論文no.2)。(3)以上の、金融グローバル化を背景とした欧州の国際連絡組織と、アジアでの多重債務問題に関わる諸団体による国際交流等の活動を比較考察した(雑誌論文no.4)。(4)多重債務問題に関する国際会議に参加し、日本の多重債務対策の特徴とその影響を、当事者と専門家の協働という観点から報告し、各国関係者と討議した(学会発表)。帰国後、その内容を紹介し検討した(雑誌論文no.5)。2. 社会的包摂と多重債務対策-(1)07・08年度に日本弁護士連合会が実施した労働と社会保障に関する海外調査(スウェーデン、ドイツ、米国他)に同行し、そこで得たことを、帰国後、制度を支える人々の認識と様々な活動に焦点を定めて考察した(雑誌論文no.3, 図書no.1, 2)。(2)多重債務者が問題を抱え解決するまでの過程を、家族との人間関係において捉え直し、当人が家族から、また当人と家族が社会から排除されたり包摂されたりする契機を考察した(図書no.3)。
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