本年度は、主としてこれまでの成果を結実し、日本における心理主義化の系譜学的考察を行った。その中では、1990年代と2000年代との間で、それまでの「心構え」を説く抽象的なものから、心理学的手法が次第にTPOに併せたものに変化し、より具体化されていることを、同時代のマナーブックや雑誌の記事の言説分析を通して明らかにした。その上で、感情を巡る知の有無が選別基準となり、社会階層を規定していく有り様を分析する一方で、他方では社会ばかりではなく人々がそれを望む面があり、従来の「知」による統制といった方向での批判では限界があることを指摘し、なぜ・どのように人々が感情を巡る知を欲するのかを検討する必要があることを示した。 さらに、これまでの感情労働論を精査する中で、それが感情規則に呼応した限定的なものであり、むしろ多様な感情を分析する際にはさらなる概念の精査が必要であることを示しつた。具体的には、日英のホスピスにおける感情労働の実証的調査を行い、それを具体化することに努めた。具体的には、感情規則といった固有の感情では語りきれない多様な自己感情の存在を指摘した。そして、そのような多様な自己感情が一方で、その上でそれが単に社会的に・言語的に構成されているだけではなく、さまざまな装置(空間・時間の意識・相互行為装置など)に支えられながら紡ぎ出されていることを明らかにした。 本年度の研究成果は下記に示されるが、上記の研究課題に関する本年度の成果である一方、他方では次年度以降も科研費などを用い、さらに調査・精査すべき課題である。
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