初年度は、(1)理論面においては、農村社会学における家村理論および家族社会学におけるライフコース論の知見を摂取し、その分析枠組みの(再)認識につとめた。その中から、個人が重視されるきらいのあるライフコース論において、「家」という生活単位を分析の単位にしてみると変動過程の把握が深まる点の示唆を得ることができた。 (2)実査面においては、これまで継続的な調査対象地としてきた山形県庄内地方のIターン就農者への聞き取りをおこなう一方、定年帰農希望者や、山形県の新規参入者グループとそれとの交流団体への聞き取り、さらには宮城県、岩手県のIターン者、新規就農者への聞き取りをおこなった。このように初年度は研究を拡充するための予備調査という側面が強かった(よって研究論文等は発刊できていない)。 それらの調査からうかがえたことは、(1)Iターン就農者が地域と織り成すネットワークは非常に多様であるものの、一様に地域との摩擦を抱えていること、(2)かつそこで象徴的なもの(たとえば祭りなど)が重要な関与をしていることである。(3)加えて、Iターンではない農家子弟の新規就農者をみると、地域との摩擦は見られないものの親との対立が共通の課題として見えてきたことである。 このように、Iターン者の日常的なつきあい関係とその影響を把握するには、ある程度集落に入り込み、「仲間」に準じるものとして認知してもらわないと困難である事が予備調査からうかがえた。次年度ではその点を補完するため、参与観察的なインテンシブ調査をおこなう計画である。
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