研究概要 |
当初,森林所有者の造林や保育などの施業行動そのものが信頼や社会規範によって影響を受けることを明らかにしようと考えていた。しかし,前年度に実施した予備調査のデータを分析した結果,そうした社会構造の影響をあまり受けないことが示唆された。そこで本年度は,森林の利用に関わって社会構造の影響を受けやすい,あるいはその影響を観察しやすい研究対象として,岩手県二戸市周辺における漆生産者らを選んだ。岩手県における生漆の生産は浄法寺地区を中心に活動する十数名の漆掻きによっておこなわれている。この十数名全員の漆掻きの社会関係と生産行動との関係を解明することを目的として,聞き取り調査を行った。また,岩手県内の漆振興に関わって,行政やNPOが活発な動きを見せ始めている。そこでこうした関係者らに対しても聞き取り調査を行った。 いずれの調査においても,とくにネットワークの視点を重視することにした。ミクロな社会構造が信頼や社会規範といった態度や行動に影響を与え,それがマクロな社会の動きに結びつく様子を明らかにできると考えたからである。漆掻きの調査では,漆掻き同士のほか,漆原木の入手先,生漆の販売先,漆振興に関わる行政の関係者らとのネットワークについて,リストを提示する方法によって調べた。そのほかに,漆の生産量や生産方法,漆以外の収入の有無などを調査項目とした。漆掻き調査と同時に,漆掻きのネットワークの相手先である漆塗り師,漆原木所有者などを対象とした調査も進めた。
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