研究概要 |
森林所有者と素材生産業者との間の社会関係が森林管理問題に与える影響について,秋田県内の素材生産業者等を対象として実施した聞き取り調査にもとづいて分析し,研究成果のとりまとめを行った。そのなかで,伐採契約に将来の継続的な契約を前提にしない弱い紐帯,あるいは,契約相手の森林所有者同士が互いに知り合いではないような開放的なネットワークを利用している素材生産業者は,そうでない業者と比較して高い生産性を達成することが可能であることが明らかになった。素材生産業の高い生産性は,国産材が利用されないという森林管理問題の緩和に結びつくものと考えられる。 また,昨年度に引き続いて岩手県二戸市浄法寺地区を中心とした生漆の持続的生産に関わって,社会的ネットワークの視点から調査を行った。昨年度と同様に,漆掻き同士のほか,漆原木の入手先,生漆の販売先,漆振興に関わる行政の関係者らとのネットワークについて,リストを提示する方法によって調べた。この調査を進めるなかで,2008年度までに文化財修復の用途での大量の需要発生と,浄法寺漆の認証制度の導入という2つの大きな環境変動が発生した。これら環境変動にともなって従来の生漆流通のあり方も変化しつつある。そこでこれら環境変動にともなう社会的ネットワーク変動,そしてその結果としての生漆生産の持続性にどのような影響を与えたのか,という点は興味深く,今後も調査を継続することが必要と考えられた。
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