本研究課題のうち、アファーマティブ・アクション(AA)への賛否の主張を構成する論拠に関する規範理論的分析においては、「機会均等の促進」がAA支持の論拠とされる一方で「機会均等原則の侵害」がAA批判の論拠として用いられるという構図があり、ここに生じている正当性をめぐるディレンマは、「機会」概念の適用水準の違い、「メリット(merit)」概念の意味内容のずれ、「非差別原理(non discrimination principle)」に対する規範的判断の相違によるものであることが示された。また、人種や性に関する従来のAA理論と、障害者を対象とするAA理論とでは、能力の平等想定の有効性、集団代表の必要性、等について差異があり、それらを考慮した論拠の提示が必要であることが明らかになった。 また高等教育におけるAAの有する社会的効果に関する分析モデルの構築に当たっては、「クォータ制」(特定の集団に対して一定の入学者数を割り当てること)等の入学時における強いAA、「アウトリーチ」(特定の集団を対象に積極的なリクルーティングや支援の提供などの働きかけを行うことで選抜対象のプールを多様化させること)等の入学時およびその前段階における弱いAA、「合理的配慮提供」(個人の能力を発揮させるための必要かつ適切な配慮)等の入学後の措置を含む広義のAA、といった施策の性質による区別を行った上で、それらの施策グループごとに効果分析を行う必要性が明らかになった。さらに、そうした施策の含意についての学生自身の評価・認識のあり方がパフォーマンスに与える心理学的効果についても、理論モデルに組み込むことが必要であることが示された。
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