当該年度の研究目的は、アファーマティブ・アクション施策をその基本的理念や手法に着目して分類した上で、障害者の社会参加の程度と正の相関を有するアファーマティブ・アクション施策の条件を特定し、障害者に関わる制度設計の文脈において有効な理論モデルを提示することである。この観点から、とりわけソフトなアファーマティブ・アクション施策の一部として位置付けられる「合理的配慮提供」と、ハードな施策に含まれる数値目標型の手法に着目し、それらが有する社会的効果について整理・分析を行った。 その結果、ジェンダー平等の領域等で重視されている集団間の数的な不均衡の是正という目標は、特定の集団が著しく不利を被るような事態には機会平等の侵害が潜在しているという想定に支えられており、その意味でハードなアファーマティブ・アクション施策と適合的であり、実質的な社会参加の促進に有効性を持つことが示された。これに対して、「合理的配慮提供」は個人間のフェアな競争条件の確保という機会平等観に留まっており、その点で参加の量的拡大に関する実効性の観点からは、限界を有していることが明らかになった。このように、とりわけ障害領域におけるアファーマティブ・アクションの位置付けが制約的である理由としては、(1)障害の多様な種別や程度に対応するために個別的状況に焦点を当てた方法がより有効であると考えられること、(2)集団間の数的な比較を根拠に機会平等の度合いを測定するような主張がしづらいこと、が考えられる。これを踏まえて、こうした点を乗り越える観点を導入することが課題として浮上した。
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