当該年度の研究目的は、肯定的な社会的効果を包摂する形でアファーマティブ・アクションの論拠を再編成した上で、本研究課題の背景にある2つの政策的課題(障害者の福祉水準の向上と、社会的負担能力の低下への対応)に対して、教育・研究領域におけるアファーマティブ・アクション施策の有するインプリケーションを示すことである。この観点から、とりわけハードなアファーマティブ・アクション施策に位置付けられる割当(クォータ)制度に焦点を当て、それが機会平等の観点から規範的に正当化しうるものか否かについて検討し、その可能性および理論的困難について探求した。 検討の結果、条件平準化原理(level-the-playing-field principle)に基づく機会平等理念の中でも、とりわけ厳格な責任-平等主義の立場を採るJohn E. Roemerの構想に依拠することによって、割当制に対する正当化根拠が得られることが示された。この点は、仮に制度が導入されたとしてもそれが社会規範から逸脱したものとして理解されるならば、施策の対象とされる人々にスティグマを付与することにつながりむしろ負の効果をもたらすことを示した本研究の知見に照らして、きわめて重要である。しかし、ここで採用したRoemerの構想に含まれる潜在力(potential)概念の特殊性により、正当化根拠として用いた機会平等理念そのものが有する規範性が毀損される恐れが内包されることになっており、その点についてはさらなる研究が求められる。
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