平成20年度は、主として国民年金法(昭和34年公布、法律第141号)の立案過程に関わって収集した資料を基に、とくに保険料の拠出をめぐる議論の展開を分析した。 国民年金法は、内閣総理大臣の直轄である社会保障制度審議会が設置した年金特別委員会と、厚生省がその諮問機関として設置した国民年金委員とがそれぞれに基本方針を検討した結果を受けて、最終的には、自由民主党が設置した国民年金実施対策特別委員会が作成した「国民年金法案要綱」に基づき創設された。 年金特別委員会は、拠出制の年金と無拠出制の年金とを構造的に組み合わせ、無拠出制の年金を恒久的に拠出制の年金の基礎とすることを提案した。他方で、国民年金委員は、無拠出制の年金は例外的に支給されるものとすることを提案した。これら2案を基に創設された国民年金法は、結局、無拠出制の年金を拠出制の年金の補完的、経過的なものと位置づけ、具体的には、給付の費用が全額国庫負担である老齢福祉年金、障害福祉年金、母子福祉年金を規定した。無拠出制の年金のこのようなあり方は、社会保障制度審議会が示した基本方針とは異なるものであったために、「国民年金法案要綱」を諮問された同審議会では議論が白熱し、強い不満も表明されていた。 なお、平成20年度の途中で、元厚生省社会局長の故木村忠二郎氏が収集した膨大な行政文書(以下、木村文書)のなかに、「国民年金法案要綱」を審議した当時の社会保障制度6審議会に関係する文書が含まれていることがわかった。そこで、急きょ木村文書中の同審議会に関係する文書から、とくに国民年金法の立案に関係する文書を収集することに努めた。その分析については、今後の課題として残されている。
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