本年度は、収集した資料と関係者の聞き取り調査により得られた結果から、1970年から2000年の期間に当事者組織の実践活動が「高齢期の労働問題」をどのように捉え、定義づけてきたのかについて国の政策レベルの議論との関係を考慮に入れ、分析を進めた。 当事者組織の実践活動をみると、高齢期の活動領域を「職業生活」と「家庭生活」に切り離さず、「労働と生活」の相互関連性を強く意識して、「高齢期の労働問題」を「生きるための労働」と位置づけ、特に意識的に雇用を生み出すことに力を注いでいることがわかる。その結果、多様な形態の労働が創出され、そこでは賃金とそれ以外(例えば、生きがいなど)に価値をおく内容の違う労働が認められる。一方「高齢期の労働問題」について、国の高齢者就労政策では、高齢期の活動領域を「職業生活」と「家庭生活」に切り離し、活動の比重が「職業生活」から「家庭生活」へ段階的に移行することで労働の内容が一般的雇用労働から社会活動へ変化することを想定する。当事者組織は、こうした政府のあり方に対して異を唱え、政策の隙間を補完する役割を宣言した。その背景には、当事者組織に参加する成員の不安定な生活実態があった。当事者組織の動きは、政府の「高齢期の労働問題」へのアプローチは、年金などの受給により生活が安定的で就業選択が可能な層には適合するが、生活が不安定で就業選択が出来ない層へは不十分であることを指摘し、自らその解決に乗り出したものであるといえる。
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