本研究では、胎児性水俣病患者の存在と被害のありようを前提として、なお未解明な点、「障害者としての胎児性水俣病被害者と新たな問題構造」を明らかにし、全体構想の中で具体的な課題としては、胎児性水俣病患者のアイデンティティポリティクスを解明していくことが出発点とした。 公害被害者としての胎児性水俣病患者の生活障害を調査研究することを通して、社会モデルへの障害概念の転換の含意を拡張していき、先天的な胎児性水俣病患者の障害概念を明確することを目的とした。 平成18年度は、先行研究のサーベイを行い、水俣学現地研究センター(水俣市浜町)を研究拠点として水俣在住の患者家族へのコンタクトを試みた。平成19年度は、胎児性水俣病患者のみならず、同世代の認定されていない、これまで差別を恐れて隠れていた人々にコンタクトを取れた。 特に患者組織や運動と接触のなかったH地区の認定患者、胎児性水俣病患者と同世代の被害者たちへのインタビューは、水俣病運動のなかでの患者役割とアイデンティティ形成を基礎にした障害概念仮説を再検討する上で意味が大きかった。胎児性水俣病・障害者とも制度の中で規定されていることによって被害が矮小化されていることが明らかになったとともに、生活の障害の複雑さの解明が更に必要であることがわかり、今後このような調査を継続し深めることが必要である。
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